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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)545号 判決 1989年9月28日

原告

廣田とき子

ほか三名

被告

白井國雄

ほか五名

主文

被告白井健二、同藤沢真行、同東京大栄運輸株式会社、同大畑英一は、各自、原告廣田とき子に対し一八四三万六八〇三円、同廣田一郎に対し三〇七万二八〇〇円、同廣田薫に対し三〇七万二八〇〇円及び右各金員に対する昭和六〇年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等の被告白井健二、同藤沢真行、同東京大栄運輸株式会社、同大畑英一に対するその余の請求、被告白井國雄、同白井利江に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告等と被告白井健二、同藤沢真行、同東京大栄運輸株式会社、同大畑英一との間に生じた分はこれを四〇分し、その一を原告等、その余を右被告等の負担とし、原告等と被告白井國雄、同白井利江との間に生じた分は原告等の負担とする。

この判決は、原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告等は、各自、原告廣田とき子に対し一八八四万〇四八三円、原告廣田一郎に対し三一四万〇〇八〇円、原告廣田薫に対し三一四万〇〇八〇円及び右各金員に対する昭和六〇年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言の申立て。

二  請求の趣旨に対する被告等の答弁

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和六〇年八月一二日午後六時三〇分頃

発生場所 横浜市港北区新横浜三―一四―八先市道上

加害車両一 普通乗用自動車(横浜五九ら九八九四号)

運転者 被告白井健二(以下「被告健二」という。)

同乗者 訴外廣田賢二(以下「訴外賢二」という。)

加害車両二 普通乗用自動車(横浜五九ね八五九五号)

運転者 被告藤沢真行(以下「被告藤沢」という。)

加害車両三 普通貨物自動車(多摩一一あ九六三四号)

運転者 被告大畑英一(以下「被告大畑」という。)

事故の態様 被告健二が加害車両一を運転して本件事故現場付近の歩車道の区別のある市道を進行中、折りから信号機の設置されていない交差点を左側から右側に向かつて横切ろうとして出て来た被告藤沢運転の加害車両二を発見し、同車との衝突を避けようとして進行方向左側にハンドルを切つたが、自車を左側沿石に当て、そのまま沿石にそつて約一〇・五メートル進行したのち反対車線に飛び出し、折から進行中の被告大畑運転の加害車両三に衝突させた。右事故により、加害車両一に同乗していた訴外賢二は即死した。

2  被告等の責任

(一) 被告健二

被告健二は、加害車両一を運転し本件事故現場の交差点に進入するにあたり、徐行義務を怠り、制限速度を超えて交差点に進入し、本件事故を発生せしめた過失があるから、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(二) 被告白井國雄、同白井利江

被告白井國雄、同白井利江は被告健二の両親であり、本件事故当時一九歳で未成年者であつた被告健二の親権者であつた。

被告白井國雄、同白井利江は、被告健二の親権者として、交通規制を遵守するように被告健二を十分監督すべき義務があつたのにこれを怠り、本件事故を発生せしめた過失があるから、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(三) 被告藤沢

被告藤沢は、加害車両二を運転し本件事故現場の交差点に進入するにあたり、交差点の手前で右方向の状況を充分確認すべき義務を怠つて交差点に進入し、本件事故を発生せしめた過失があるから、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(四) 東京大栄運輸株式会社

被告東京大栄運輸株式会社(以下「被告東京大栄運輸」という。)は、加害車両三を所有し、自己のため運行の用に供していたから自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(五) 被告大畑

被告大畑は、加害車両三を運転し本件事故現場にさしかかつたが、加害車両一が高速で進行し、加害車両二との衝突を避けようとして進行方向左側にハンドルを切り、自動車を左側沿石に当て進行する等不自然な動きをしていたのであり、反対車線に進入してくることも予想できたのであるから、直ちに一時停止するか、減速徐行すべきであつたのにこれを怠り漫然進行したため、右ハンドルを切り、反対車線に飛び出してきた加害車両一を避けることができず、本件事故を発生させた過失があるから、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

3  原告等と訴外賢二の関係

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は訴外賢二の父母であり、訴外賢二の相続人である。

訴外廣田松五郎は昭和六三年一一月一七日死亡し、同人が本件事故により取得した損害賠償請求権を原告廣田とき子、同廣田一郎、同廣田薫が法定相続分に従い、原告廣田とき子が二分の一、原告廣田一郎、同廣田薫が各四分の一宛相続した。

4  損害

(一) 訴外廣田松五郎、原告廣田とき子の損害

(1) 葬儀関係費用 合計一〇〇万円

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は訴外賢二の葬儀をとりおこない、その費用として少なくも一〇〇万円を支出し、その二分の一の五〇万円宛を負担した。

(2) 諸雑費・文書料・治療費 合計二万七七〇〇円

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は諸雑費として六〇〇円、文書料として二一〇〇円、治療費として二万五〇〇〇円、合計二万七七〇〇円を支出し、その二分の一の一万三八五〇円宛を負担した。

(3) 慰謝料 合計一五〇〇万円

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は訴外賢二を失い多大の精神的苦痛を被つた。

右精神的苦痛を慰謝するには、各七五〇万円の支払を持つてするのが相当である。

(二) 訴外賢二の逸失利益 三六八四万二四〇四円

訴外賢二は、本件事故当時満一九歳の健康な男子で、大学一年生であつたから、本件事故に遭遇していなければ、二三歳で大学を卒業し、六七歳までの四九年間稼働し、その収入は大学卒業の男子労働者の平均収入額を下回らないことが明らかである。

そして、昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計男子労働者大学卒の平均年収は五〇七万〇八〇〇円であるから、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニッツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり三六八四万二四〇四円になる。

507万0800円×(1-0.5)×(18,0771-3,5459)=3684万2404円

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子はその各二分の一である一八四二万一二〇二円宛を相続した。

(三) 損害の填補

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は、本件事故に関し自賠責保険金として、訴外大成火災海上保険株式会社から二五〇一万六九〇〇円、訴外東京海上火災保険株式会社から五四七万〇八〇〇円、合計三〇四八万七七〇〇円の支払を受け、その二分の一の各一五二四万三八五〇円宛を訴外廣田松五郎、原告廣田とき子の前記損害に充当した。

(四) 弁護士費用 合計二七三万八二四〇円

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は、被告が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起、追行を原告等訴訟代理人に委任し、その費用として、昭和六二年一二月一六日着手金として各二五万円宛を支払い、同月一〇日本件訴訟で訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が得る経済的利益の一〇パーセントの各一一一万九一二〇円を支払うことを約した。

5  相続

以上によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は、被告等各自に対し、各一二五六万〇三二二円(うち、弁護士費用一三六万九一二〇円)の損害賠償請求権を有するところ、訴外廣田松五郎は昭和六三年一一月一七日死亡し、同人が本件事故により取得した損害賠償請求権を原告廣田とき子、同廣田一郎、同廣田薫が法定相続分に従い原告廣田とき子が二分の一、原告廣田一郎、同廣田薫が各四分の一宛相続したので、原告廣田とき子は自己の損害賠償請求権も合わせ一八八四万〇四八三円、原告廣田一郎は三一四万〇〇八〇円、原告廣田薫は三一四万〇〇八〇円の損害賠償請求権を取得することになつた。

6  結論

よつて、被告等各自に対し、原告廣田とき子は一八八四万〇四八三円、原告廣田一郎は三一四万〇〇八〇円、原告廣田薫は三一四万〇〇八〇円及び右各金員に対する本件事故発生の日の昭和六〇年八月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告健二、同白井國雄、同白井利江の認否

1  1項の事実は認める。

2(一)  2項(一)の事実は否認する。

仮に被告健二に、徐行義務を怠り、制限速度を超えて交差点に進入した過失があつたとしても、右事実は本件事故の原因ではない。

(二)  同(二)の事実は否認する。

被告健二は本件事故当時一九歳であつて、被告白井國雄、同白井利江が親権者として責任を負うべき立場にはない。

3  3項の事実は認める。

4(一)  4項(一)、(二)、(四)の各事実は知らない。

(二)  同(三)の事実のうち、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が、本件事故に関し自賠責保険金として、訴外大成火災海上保険株式会社から二五〇一万六九〇〇円、訴外東京海上火災保険株式会社から五四七万〇八〇〇円、合計三〇四八万七七〇〇円の支払を受けた事実は認め、その余は知らない。

三  請求原因に対する被告藤沢の認否

1  1項の事実は認める。

2  2項(三)の事実は認める。

3  3項の事実は認める。

4(一)  4項(一)、(二)、(四)の各事実は知らない。

(二)  同(三)の事実のうち、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が、本件事故に関し自賠責保険金として、訴外大成火災海上保険株式会社から二五〇一万六九〇〇円、訴外東京海上火災保険株式会社から五四七万〇八〇〇円、合計三〇四八万七七〇〇円の支払を受けた事実は認め、その余は知らない。

四  請求原因に対する被告東京大栄運輸、同大畑の認否

1  1項の事実は認める。

2(一)  2項(四)の事実は被告東京大栄運輸に責任があることは争い、その余は認める。

(二)  2項(五)の事実は否認する。

本件事故は、被告健二運転の加害車両一が、後部座席に訴外賢二ほか二名を乗せて本件事故現場の交差点を通過する際、折りから同交差点を左から右に横切る形で直進横断しようとしていた被告藤沢運転の加害車両二に気付かず同交差点を通過しようとしたため、加害車両二と衝突しそうになり、同車を避けようとして、進行方向左側にハンドルを切つたのが発端となつて発生した事故であつて、加害車両一は、左側沿石に自車を当てそのまま一〇・五メートル進行し、その後反射的に右側にハンドルを切つたため、被告大畑運転の加害車両三の直前に飛び出す形となり、衝突したものである。

加害車両一と加害車両二がすれ違つたとき、加害車両一は被告大畑の運転する加害車両三が進行する反対車線にいたのであり、しかも左ハンドルを切つて加害車両三から遠ざかる形であつたもので、この時点で、被告大畑に加害車両一が自車線内に進入してくることは到底予想できなかつたし、加害車両一が道路左側の沿石にぶつかり走行した間も、反対車線の歩道寄りを走行していたのであるから、被告大畑に加害車両一が自車線内に進入してくることは予想できなかつた。

被告大畑は、加害車両一が道路左側の沿石から離れ、加害車両三の進行する車線内に突入して来ることを察知した時点で、直ちに急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切る等事故回避のためなしうる限りの措置を尽くしている。

右事故状況から明らかなとおり、本件事故は、被告健二が、信号機のない交差点を通過するにあたつて、徐行をせず、前方不注視のまま交差点に進入するという同被告の一方的過失により発生したもので、被告大畑には何らの過失もない。

3  3項の事実は認める。

4(一)  4項(一)、(二)、(四)の各事実は知らない。

(二)  同(三)の事実のうち、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が、本件事故に関し自賠責保険金として、訴外大成火災海上保険株式会社から二五〇一万六九〇〇円、訴外東京海上火災保険株式会社から五四七万〇八〇〇円、合計三〇四八万七七〇〇円の支払を受けた事実は認め、その余は知らない。

五  被告東京大栄運輸の抗弁

1  四項2(一)で主張したとおり、本件事故は、被告健二が、信号機のない交差点を通過するにあたつて、徐行をせず、前方不注視のまま交差点に進入するという同被告の一方的過失により発生したもので、被告大畑には何らの過失もない。

2  加害車両三には、構造上の欠陥も機能上の障害もなかつた。

3  よつて、被告東京大栄運輸は、自賠法第三但書の適用により、免責されるべきである。

六  被告健二の抗弁

1  被告健二は、本件事故当時日本工学院専門学校に在学中で、加害車両一に同乗していた訴外賢二、同佐々木尚也、同中沢裕介は高校時代の同級生で、遊び仲間であつた。

被告健二は、本件事故が発生した日の午後七時頃から訴外賢二、同中沢裕介、高校時代の同級生の訴外桶熊とマージヤンをする約束であり、同日午後〇時頃から訴外中沢裕介が頭痛がすると言つて被告健二方に来て休んでいた。

同日午後三時三〇分頃、訴外賢二から被告健二に「パチンコで負けたから、車で迎えに来てくれないか。」という電話があつて、被告健二は午後は四時一五分頃、訴外中沢裕介も同乗し、加害車両一を運転してパチンコ店に到着した。

2  パチンコ店に到着したところ、訴外佐々木尚也が東本郷の自宅に帰りたいと言つたので、被告健二は、訴外賢二、同佐々木尚也、同中沢裕介を同乗させ、東本郷に向かつたが、途中、訴外佐々木尚也が「家には帰らない。」と言つたため、引帰す途中本件事故に遭遇したものである。

3  以上のとおり、訴外賢二は、好意同乗者であるから、被告健二の負担する賠償責任は、相当額において減額されるべきである。

七  被告東京大栄運輸の抗弁に対する認否

1  1項の事実は否認する。

2  2項の事実は知らない。

八  被告健二の抗弁に対する認否

訴外賢二が好意同乗者であつたことは認めるが、被告健二の賠償責任を減ずべき特別の事情は存在しない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実(事故の発生)は当事者間に争いがなく、各当事者間に成立に争いのない甲第一号証ないし第一〇号証、丙第一号証、被告大畑英一本人尋問の結果(後記一部措信しない部分を除く。)によると、本件事故の態様につき、次の事実を認めることができる(なお、各当事者間に争いのない事実を含む。)

1  被告健二は、昭和五九年一二月一三日に普通免許を取得し、本件事故時まで約八か月の運転経歴であつたもので、加害車両一は、運転免許を取得した頃、アルバイト先の先輩から一〇万円で譲受けた自動車であつた。

2  被告健二は、本件事故当時日本工学院専門学校に在学中で、加害車両一に同乗していた訴外賢二、同佐々木尚也、同中沢裕介は高校時代の同級生で、遊び仲間であつた。

被告健二は、本件事故か発生した日の午後七時頃から自宅で訴外賢二、同中沢裕介、高校時代の同級生の訴外桶熊とマージヤンをする約束であり、午後三時頃から訴外中沢裕介が頭痛がすると言つて被告健二方に来て休んでいた。

そこで、被告健二は、午後四時半頃訴外桶熊方に電話し、同日午後七時に横浜市港北区菊名所在のYMCA前に迎えに行く約束をしたが、午後六時頃、訴外佐々木尚也から被告健二に「パチンコで負けたから、自宅に送つてくれないか。」という電話があつて、訴外中沢裕介を乗せ、加害車両一を運転して自宅から三分位の距離にあるパチンコ店に行つた。

3  被告健二は、加害車両一の助手席に訴外中沢裕介、後部右座席に同佐々木尚也、左座席に同賢二を乗せ、環状二号線を訴外佐々木尚也の自宅のある横浜市港北区東本郷に向かつたが、途中、訴外佐々木尚也が「家には帰らない。」と言つたため引帰そうとしたが、環状二号線をUターンせず、右折を繰り返し環状二号線に沿つて引帰そうとし、本件事故現場にさしかかつたもので、被告健二は訴外桶熊との約束の時間も迫つていて、かなり急いで車を運転していた。

4  本件事故現場は、南西方向の新横浜二丁目方面から北東方向の大豆戸方面に至る歩車道の区別のある、車道の幅員約七・六メートルの片側各一車線の一般市道と西北方向の鳥山川方面から東南方向の篠原町方面に至る歩車道の区別のある、車道の幅員約七・六メートルの片側各一車線の一般市道との交差点(以下「本件交差点」という。)で、鳥山川方面から篠原町方面に至る道路には、交差点の手前に一時停止の標識が設置されており、進行方向右側の新横浜二丁目方面は畑になつているが、歩道上に七ないし八メートルの間隔で街路樹が植えられていて、枝葉が地上一・三メートルまで生い茂つているほか畑と道路の間には柵があり、大豆戸町方面も同様街路樹が植えられているほか雑草が生えていて停止線の位置からの左右の見通はあまり良くない。

また、右両道路とも、公安委員会により最高制限時速が四〇キロメートルに制限されていた。

5  被告健二は、加害車両一を運転して新横浜二丁目方面から大豆戸町方面に向け時速約五〇キロメートルで進行し、本件交差点の約一二〇メートル手前の地点で右交差点に気付いたが、急いでいたためそのまま加速を続けるうち、交差点の手前約六〇メートルの地点で、助手席の訴外中沢の姿が気になつて助手席の方を見て、再び前方を見たところ、前方約二九・八メートルの地点を鳥山川方面から篠原町方面に向かつて横切ろうとして出て来た被告藤沢運転の加害車両二を発見し、同車との衝突を避けようとして、とつさに進行方向左側にハンドルを切つたが、交差点を横断したのち、自車を左側の歩道の沿石に当て、そのまま沿石にそつて約一〇・五メートル進行し、そののち、車体の右前後輪を浮かせた形で反対車線に飛び出した。

加害車両一が本件交差点にさしかかつた際の速度は、すくなくとも時速六〇キロメートルはあつた。

6  被告藤沢は、加害車両二を運転して鳥山川方面から篠原町方面に向かつて進行して本件交差点にさしかかり、交差点の手前の一時停止線で停止させ右方向の新横浜二丁目方面の確認をしたところ、同方向の視界は一一〇メートル位はあつたが、七〇ないし八〇メートルの範囲内に走行する自動車が見あたらなかつたので、変速器のギアをローギアに入れて発進し、運転席の位置が歩道にかかつた地点で左方向の大豆戸町方面の確認をしたところ、同方向から自動車が進行して来るのが見えたが、距離が一〇〇メートル位あつたのでそのまま横断できると判断し、変速器のギアをセコンドにして進行しながら、再度右方向を見たところ、約二八メートルの地点に高速で接近して来る加害車両一を発見し、衝突の危険を感じ、急加速して交差点を横断し、その場を離れた。

7  被告大畑は、加害車両三を運転して大豆戸町方面から新横浜二丁目方面に向け時速約四〇キロメートルで進行していたが、本件交差点の手前約八四メートル前方に、反対車線を対向して来る加害車両一と、その直前を横断する加害車両二を発見し、その直後加害車両一が左にハンドルを切り、自車を左側沿石に当て進行するのを見た。

そして、加害車両一がそのまま沿石にそつて約一〇・五メートル進行したのち、車体の右前後輪を浮かせた形で加害車両三が進行する車線に向かつて来るのを約二三メートル前方に発見して、被告大畑は初めて衝突の危険を察知し、急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切つたが及ばず、自車右前部を加害車両一の左側面に衝突させた。

被告大畑が加害車両一を発見してから、衝突の危険を察知し、回避行動をとるまでの間に加害車両三はそのままの速度で約二一メートル進行していた。

また、被告大畑が危険を察知した場所(但し運転席の位置)から、加害車両一のタイヤ痕の始まる位置までの距離は右前輪のタイヤ痕が五・四メートル、左前輪のタイヤ痕が六メートルで、タイヤ痕の長さは右前輪のタイヤ痕が四メートル、左前輪のタイヤ痕が三・五メートルで、両タイヤ痕の終わつた位置は略同一であつて、その地点から前方三メートルの位置が衝突地点である。

8  本件事故発生場所の道路は、アスフアルト舗装の平坦な道路で、本件事故当時路面は乾燥していた。

このような状態の道路を時速四〇キロメートルで走行している自動車が急ブレーキをかけた場合の制動時間は一・五九秒、制動距離は九メートルであり、空走距離は、反応時間の早い人(〇・五秒)で五・五六メートル、遅い人(一秒)で一一・一一メートルである。

以上のとおり認められ、被告大畑の供述中、右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二  そこで、次に各被告の責任につき検討する。

1  被告健二

一項に判示の事実によると、被告健二は、加害車両一を運転し本件交差点に進入するにあたり、前方注視を怠り、かつ、徐行義務を怠つて制限速度を超える約六〇キロメートルで交差点に進入しようとした過失により、加害車両二の発見が遅れ、かつ左に急ハンドルを切つたため、操縦の自由を失い本件事故を発生させるに至らしめたもので、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

2  被告藤沢

一項に判示の事実によると、被告藤沢は、加害車両二を運転し、左右の見通しのよくない本件事故現場の交差点に進入するにあたり、停止線で一旦停止させたものの、右方向の新横浜二丁目方面の状況を充分確認せず、さらに前進して交差点に進入するにあたり、左方向の大豆戸町方面のみを注視し、右方向の安全の確認を怠つて進入したため、加害車両一の直前に自車を進出させることになり、被告健二の運転を誤らせ本件事故を発生させるに至らしめたもので、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

3  被告大畑

一項に判示の事実によると、被告大畑は、加害車両三を運転し本件事故現場にさしかかつたが、加害車両一が高速で進行し、加害車両二との衝突を避けようとして進行方向左側にハンドルを切り、自車を左側沿石に当て進行する等不自然な動きをしていたのであり、片側車線の幅員が四・三メートルに過ぎないことも合わせ考えると、その時点で加害車両一が反対車線である自車線内に進入してくることも予測できたものと判断される。そして、仮に被告大畑において、右事実を予測し、加害車両一が左側沿石に当つてそのまま進行を開始した時点で徐行措置をとつていれば、その後被告大畑が危険を察知した場所で急ブレーキをかけても、既に徐行措置をとつているため、ブレーキが働くまでの空走時間がなく、また減速されているため加害車両一との衝突前に自車を停止させることができ、事故の被害の拡大を妨げたものと判断されるから、被告大畑には本件事故発生に過失があり、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

4  東京大栄運輸

被告東京大栄運輸が、加害車両三を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、右事実によると、被告東京大栄運輸は、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

同被告は、自賠法第三条但書の免責の主張をするのであるが、加害車両三を運転した被告大畑に本件事故発生に過失があることは前判示のとおりであるから、被告東京大栄運輸の主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当で採用できない。

5  被告白井國雄、同白井利江

原告等は、被告白井國雄、同白井利江は被告健二の両親であり、本件事故当時一九歳で未成年者であつた被告健二の親権者であつたものであるところ、被告白井國雄、同白井利江は、被告健二の親権者として、交通規制を遵守するように被告健二を十分監督すべき義務があつたのにこれを怠り、本件事故を発生せしめた過失がある旨主張する。

しかし、被告白井國雄、同白井利江の監督義務違反の内容と本件事故との間の因果関係の存在の具体的な主張がなく、その立証もないので、原告等の右主張は採用できない。

三  原告等と訴外賢二の関係

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は訴外賢二の父母であり、訴外賢二の相続人であること、訴外廣田松五郎は昭和六三年一一月一七日死亡し、同人が本件事故により取得した損害賠償請求権を原告廣田とき子、同廣田一郎、同廣田薫が法定相続分に従い原告廣田とき子が二分の一、原告廣田一郎、同廣田薫が各四分の一宛相続したことは当事者間に争いがない。

四  損害

1  訴外廣田松五郎、原告廣田とき子の損害

(一)  葬儀関係費用

原告廣田とき子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一二号証の一、二、第一三号証、第一四号証の一ないし一〇、同尋問結果、弁論の全趣旨によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は訴外賢二の葬儀をとりおこない、その費用及び墓石・墓誌・板石の費用として一〇〇万円以上を支出し、その二分の一宛を負担したことが認められるところ、右支出のうち、各自五〇万円、合計一〇〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(二)  諸雑費・文書料・治療費

原告廣田とき子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は、少なくとも諸雑費として六〇〇円、文書料として二一〇〇円、治療費として二万五〇〇〇円、合計二万七七〇〇円を支出し、その二分の一の一万三八五〇円宛を負担したことが認められ、右支出は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(三)  慰謝料

訴外賢二は、本件事故により二〇歳の若さで死亡したものであり、成立に争いのない甲第一〇号証によると、不慮の事故で子供に先立たれた訴外廣田松五郎、原告廣田とき子の精神的苦痛は察するに余りがあるのであつて、その他本件事故に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件事故により訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が受けた精神的苦痛を慰謝するには各七五〇万円の支払いをもつてするのが相当と認められる。

2  訴外賢二の逸失利益

成立に争いのない甲第一一号証、原告廣田とき子本人尋問の結果によると、訴外賢二は昭和四〇年四月八日生まれで、本件事故当時千葉敬愛経済大学一年に在学の健康な男子であつたことが認められ、本件事故に遭遇していなければ、四年後の平成元年三月に二三歳で大学を卒業し、六七歳までの四四年間稼働し、その間少なくとも昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子労働者大学卒の平均年収である五〇七万〇八〇〇円の収入を得ることができたものと認められ、右金額から生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニッツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり三六八四万二四〇四円になり、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子はその各二分の一である一八四二万一二〇二円宛を相続したことが認められる。

507万0800円×(1-0.5)×(18,0771-3,5459)=3684万2404円

五  好意同乗

被告健二は、訴外賢二は本件加害車両一の好意同乗者であるから、損害につき相当額の相殺がなされるべきである旨主張する。

しかし、二項に認定の事実によると、被告健二は、本件事故当時、本件加害車両一を専ら訴外佐々木尚也の依頼で同人のため運行していたもので、訴外賢二は単なる同乗者に過ぎず、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件で訴外賢二、及び訴外廣田松五郎、原告廣田とき子に生じた損害を減額するのは相当でない。

六  損害の填補

訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が、本件事故に関し自賠責保険金として、訴外大成火災海上保険株式会社から二五〇一万六九〇〇円、訴外東京海上火災保険株式会社から五四七万〇八〇〇円、合計三〇四八万七七〇〇円の支払いを受けたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子は、その二分の一の各一五二四万三八五〇円宛を同人等の前記損害に充当したことが認められる。

七  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は訴外廣田松五郎、原告廣田とき子につき各一一〇万円をもつて相当額と認める。

八  相続

以上によると、訴外廣田松五郎、原告廣田とき子が受けた損害は、各一二二九万一二〇二円であることが認められるところ、訴外廣田松五郎が昭和六三年一一月一七日死亡し、同人が本件事故により取得した損害賠償請求権を原告廣田とき子、同廣田一郎、同廣田薫が法定相続分に従い原告廣田とき子が二分の一、原告廣田一郎、同廣田薫が各四分の一宛相続したことは前示のとおり当事者間に争いがないので原告廣田とき子は一八四三万六八〇三円、同廣田一郎、同廣田薫は各三〇七万二八〇〇円の請求権を有することになる。

九  結論

よつて、原告等の本訴請求は、被告健二、同藤沢、同東京大栄運輸、同大畑に対し、原告廣田とき子は一八四三万六八〇三円、同廣田一郎、同廣田薫は各三〇七万二八〇〇円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和六〇年八月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、右被告等に対するその余の請求、被告白井國雄、同白井利江に対する各請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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